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書 名エーデルワイス
作 者ツェトー/桜井正寅訳
出版社三笠書房
シリーズ若い人たちのための世界名作シリーズ

memo
【抄・序】
口絵・本文挿絵…磐広

【目次】


【本文】


【後記・他・関連書】
あとがき
思春期を迎えた若い女性の心というものはどんなにささいな外部か
らの印象に対しても鋭敏に反応を示し、これから自分を迎えいれて
くれる「大人の世界」に対して心いっぱいの憧れと不安の思いにみ
ちて期待しているものだ。だから、それ自体はたいしたことでない
ような、いろいろな生活の中の出来事に対しても、或いは喜び、或
いは悲しみ、よく笑い、そして涙をながすのである。しかも白分の
周囲のすべてのものに対して心からの善意をもって尽そうとする魂
の純粋さをまだ失っていない。この小説『エーデルワイス』の主人
公である十六歳の少女フロレンティーネも、そうした「美しい魂」
の持主といえるであろう。姉のアンナは美しく、スマートで、生活
の知恵にとんでいる。フロレンティーネは姉に対していつも羨望と
憧れの念をもっていながらも、彼女には姉のような生き方はとうて
いできない。両親を失望させるような結婚をした兄さんのオットー
のために精いっぱいの努カをして、両親と兄のために両方の仲を和
解させようと努カする彼女、また自分の養い親の親戚の息子である
アメリカの青年を慰めるために自分の初恋のドイツ青年の愛情をさ
え失いかける彼女―しかし、なんとなくやぼったい、素朴な心情の
中に人の心に温くうったえてくる生まれながらの善意が、けっきょ
くは彼女に生きる喜びと幸せを与えてくれるのである。このような
善意にみちた性格は、たとえどんなに世の中が変わっていったとし
ても、けっしてその存在の意味を失うことのないものであるといわ
なくてはならないだろう。そして現代のような文化的混乱の中で
は、稀少価値だともいえる性格だろう。こうした善意にみちた「美
しい性格」を書かせると、この本の作家ギッタ・フォン・ツェトー
女史は一級の作家といえるだろう。
 作者のギッタ・フォン・ツェトー女史はもう四十代も半ばをすぎ
た主婦である。彼女は両親のもとで幸福な青春時代を送ったが、そ
の後スイスでお料理を習い、ミュンヘンでは秘書の仕事にはげみ、
その後アメリカに渡ったが、その地ではかなり厳しい生活の苦労を
も味わったらしい。しかしその間結婚もして、今は二十七歳の男の
子と二十四歳の娘の母親でさえもある。彼女はその処女作『大人に
なりたい』――原題『シュテファニー、或いは、愛すべき愚行』
Stefanie oder die Iiebneswerten Dnmmheiten ――で、十七歳の
少女シュテファニーの思春期の明暗と、その初恋の体験を明るく、
濁りのない目と善意にみちた心で描いた。この作は、暗い戦後の生
活の渦の中でもまれる幼い魂の喜びと不安を温かく見つめながら、
生まれながらの人間の善意に対する信頼を全篇にあふれるように描
いた、みずみずしい小説となったのであった。
 『大人になりたい』につぐ、この作品『エーデルワイス』――原
題ははじめ『一年に一度のくちづけ』Ein Kuss pro Jahr ついで
『こうしてわたしの新しい生活が始った』So begann mein neues
Leben とあらためられた。――では、同じく十六歳の少女フロレン
ティーネの明るく、そして悩み多い毎日の生活を通して世の中のほ
こりにまだけがされていない、彼女の美しい人間としての善意を、
ドイツの南部ババリヤ・アルプスの中に横たわる小さな村を背景に
して見事に描いている。しかも人文主義の古い伝統を、その血の中
にもっているドイツ人の心で新しいアメリカ文明に対する的確な批
評さえも忘れてはいないのである。これはおそらく生活苦の中で味
わった作家自身のアメリカ生活の体験からくる知恵が、目本と同じ
ようにアメリカ文明の渦の中にもまれている戦後の西ドイツの若い
世代に対して、心あたたまる警告を与えているともいえるであろ
う。そのような時代の渦の中で、自分の性格を見失うことなく、自
分の生活の幸せを精いっぱいに築いていこうとする少女フロレンテ
ィーネ、一見素朴で素直ではあるが、しん強く自分を築いていくフ
ロレンティーネのような性格を、ツェトー女史も人の子の親とし
て、若い世代の理想の性格とみているのではないであろうか。それ
はちょうどアルプス山脈の岩間に咲きこぼれるエーデルワイスの花
にも似た、美しさと強さにみちているともいえるかもしれない。訳
者はそうしたフロレンティーネのイメージから、この本の題名を
『エーデルワイス』としたのであることを、ここにつけくわえてお
きたい。
1966年4月 桜井正寅


【類本】
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